5月14日(木)、日本鍼灸師会会議室において、豊島区鍼灸師会主催、東京都鍼灸師会協賛による学術研修会を開催しました。
今回の研修会では、温香堂鍼灸治療院院長であり、薬剤師の資格も持つ青山和美先生をお招きし、「科学する鍼灸臨床:華佗夾脊穴(かだきょうせきけつ)」というテーマでご講演および実技供覧をいただきました。
青山先生は、製薬会社や医療機器メーカーの研究所での品質管理責任者といった経歴を持ち、免疫学や分析化学の専門知識を背景に、鍼灸を物理学や数学のような「科学の正しさ」で検証する独自の臨床スタイルを確立されています。
研修会は、難病治療、特に自律神経失調症へのアプローチを中心とした非常に濃密な内容となり、終了後には受講者から数多くの質問が寄せられ、会場は熱気に包まれました。
- 「科学する鍼灸」の概念と背景
青山先生が提唱する「科学する鍼灸」とは、単なる経験則ではなく、「反証(例外)が出ないこと」を科学の正しさの定義とし、中医学や生理学の学説を物理的な視点で検証するものです。
先生がこの手法に辿り着いた背景には、自身の臨床において「才能のない凡人でも結果を出せる手法」の必要性を痛感したことにあります。現代医学で用いられるEBM(根拠に基づく医療)は検証の一手段に過ぎず、鍼灸師が直面する「なぜ効くのか」「どの深さが最適か」という疑問に対し、構造的・生理学的な回答を出すことが重要であると説かれました。 - 華佗夾脊穴の再定義と「回旋筋多裂筋穿刺法」
本研修会のメインテーマである「華佗夾脊穴」は、第1胸椎から第5腰椎までの棘突起の両外方5分に位置するツボ群です。青山先生は、このツボの有効性を科学的に検証した結果、現代鍼灸臨床において最も重要なポイントは「拡大華佗夾脊穴」であるとの結論に達しました。 - 深層筋へのアプローチ
従来の華佗夾脊穴の記述には深さに関する詳細が乏しいですが、先生の検証によれば、最も治療効果が高いのは、最深部にある回旋筋および多裂筋を狙う深刺です。これを青山先生は「回旋筋多裂筋穿刺法」と命名されました。
穿刺の深さ: 骨(椎間関節など)に当たるまで深く刺入します。
「鍼のヒビキ」による診断: 筋肉の硬結(コリ)の有無を、患者が感じる「鍼のヒビキ(得気)」で確認します。これにより、診断と治療を同時に行うことが可能となります。 - 安全性の確保
背部への深刺は、一歩間違えれば臓器損傷などの危険を伴います。古典(『素問』『霊枢』など)でも背部への刺鍼には警鐘が鳴らされています。しかし、青山先生は、脊柱脇5分(親指半分)の範囲内であれば、直下に骨があるため安全に深刺が可能であることを解剖学的に示されました。現代の滅菌された細く折れない高性能な鍼だからこそ、この手法が安全に実施できるのです。 - 西洋医学を凌駕する診断能力:微弱な脊柱の歪み
青山先生は、現代の医療環境の変化が新しい疾患を生み出していると指摘します。1960年代の医療改革以降、平均寿命が延びた一方で、西洋医学の検査(X線やMRI)では捉えきれない「微弱な脊柱の歪み」を抱える患者が増加しています。 - MRIを超える感度
X線やMRIは静止画像に過ぎず、痛みや不調との関連性が不明確な場合があります。一方、「回旋筋多裂筋穿刺法」による鍼のヒビキの探索は、画像診断では「異常なし」とされるレベルの微細な歪みや筋肉の異常を高感度に検知できます。青山先生のデータによれば、難病や自律神経失調症を訴える患者のほぼ100%にこの「微弱な脊柱の歪み」が認められ、本手法によって著しい改善が見られるとのことです。 - 自律神経失調症と内臓疾患への応用
なぜ脊柱脇への刺鍼が、内臓疾患や自律神経失調症に効くのでしょうか。そのメカニズムは、生理学的な「自律神経反射」で説明されます。 - 後枝反射仮説
内臓に異常があると、脊髄反射を通じて特定の部位にツボ(反応点)が現れます。
前枝反射: 臓器の直上の筋肉に現れる(阿是穴)。
後枝反射: 背中の筋肉(脊髄神経後枝支配の筋肉)に現れる(背部兪穴)。
特に回旋筋は、人体の中で最小の後枝支配の筋肉であり、ここに現れる反応は情報の「濃縮」が起きているため、異次元に高感度な「未病」のセンサーとなります。したがって、拡大華佗夾脊穴(回旋筋・多裂筋)への刺鍼は、五臓六腑の異常を極めて早期に、かつダイレクトに調整する手段となるのです。 - 臨床実践:患者の「快」を指標とする
青山先生の手法では、実技において以下のプロセスを重視します。
中医学的診断: 気血水弁証や脈診・望聞問切を行い、主訴を絞り込む。
適切な鍼の選択: 痛みの少ない鍼(主に1〜2番鍼)を使用する。
「快」の追求: 多数本を穿刺する場合でも、患者が「気持ちいい、もっと刺してほしい」と感じる状態を作ることが絶対条件です。この「快をとる」ことが、現代における「補瀉」の科学的な解釈であると説かれました。
また、脊柱の歪みに由来する「骨格系」の疾患に対しては、回旋筋多裂筋穿刺法に加え、下項線穿刺法、首三線法、脊柱矯正法といった四法を組み合わせることで、包括的な治療が可能になります。


質疑応答と総括
研修会終了後の質疑応答では、受講した鍼灸師から実技の細かな角度や、特定の疾患(膠原病など)へのアプローチについて、非常に具体的な質問が相次ぎました。青山先生は、一つひとつの質問に対し、解剖図や臨床データを示しながら丁寧に回答され、参加者の理解を深めてくださいました。
今回の研修会を通じて、私たちは古典的な知恵である「華佗夾脊穴」が、現代の解剖学・生理学・物理学の視点で再構築されることで、西洋医学の限界を補完する「最先端の医療」になり得ることを学びました。
豊島区鍼灸師会では、今後もこのように臨床に直結し、かつ科学的な裏付けを持つ質の高い学術研修会を開催してまいります。ご参加いただいた会員の皆様、そして貴重な知見を惜しみなくご披露いただいた青山和美先生に、心より感謝申し上げます。
(豊島区鍼灸師会会長 戸澤 和明)
