2026年7月16日(木)、日本鍼灸師会会議室において、一ノ瀬宏先生による「刺さない針(てい鍼)講習会」が開催されました。
本日の講習会は、座学を最小限に留め、一ノ瀬先生の卓越した職人技を目の当たりにできる「実技メイン」の構成。会場には、先生の長年の経験から完成された至高の妙技を学ぼうと、多くの鍼灸師や熱心な受講生が集まりました。終始、参加者からの質問が飛び交い、それに対して一ノ瀬先生が臨床経験に基づいた深い知見で応えるという、極めて熱気あふれる双方向の講習会となりました。
以下に、その濃密な一日をレポートします。
- 講習会の概要と熱気あふれる会場の雰囲気
定刻、日本鍼灸師会の会議室は、これから始まる実技への期待感で満ちていました。一ノ瀬先生がベッドサイドに立つと、会場の空気は一気に引き締まります。今回の講習会の最大の特徴は、教科書的な知識の羅列ではなく、一ノ瀬先生が膨大な数の臨床を重ねる中で「削ぎ落とし、練り上げ、完成させた生きた技術」を直接体感できる点にありました。実技が始まると、参加者はベッドを囲むように集まり、先生の指先の動き、針を構える角度、そして呼吸一つひとつに視線を注ぎました。一ノ瀬先生の流れるような手技、すなわち「妙技」が披露されるたびに、会場からは感嘆の声が漏れます。それと同時に、受講生からは「鍼の材質」「鍼の当て方」といった、臨床に直結する具体的な質問が次々と投げかけられました。一ノ瀬先生は、その一つひとつの質問に対して丁寧にお答えいただき、時にユーモアを交えながら、自身の失敗談や成功体験、長年の試行錯誤の歴史を紐解きながら回答されていました。この活発な質疑応答こそが、本講習会を単なる見学会ではなく、深い学びの場へと昇華させていたのが印象的です。 - 仰向け(仰臥位)におけるアプローチ:毫鍼(銀針)と金のてい鍼の妙技実技の第1部は、患者役を仰向け(仰臥位)にした状態での施術からスタートしました。ここでは、一ノ瀬先生は「先のとがった鍼(毫鍼)」と「先の丸まった鍼(てい鍼)」の、絶妙なコンビネーションが披露されました。① 腹部へのアプローチ:毫鍼(銀針)の選定 一ノ瀬先生は、腹部に対して毫鍼(銀針)を選択されました。腹部は人間の中心であり、五臓六腑の気が集まる重要な部位です。一ノ瀬先生は、腹部の緊張度や皮膚の温冷、動悸の有無を瞬時に触知し、ミリ単位の正確さで銀針を配置していきます。この銀針による施術により、患者の緊張したお腹がみるみるうちに緩み、深い呼吸へと変わっていく様子が目に見えて分かりました。② 要穴へのアプローチ:金のてい鍼(てい針)による、本講習会の核心でもある「刺さない針」の実技へと移ります。四肢や体幹に点在する特に重要な経穴(要穴)に対し、一ノ瀬先生は金のてい鍼(てい針)を取り出しました。金は非常に陽気が強く、補法(エネルギーを補う手法)に優れた金属として知られています。先生が使用するてい鍼は、先端が丸みを帯びており、皮膚を突き破ることはありません。しかし、一ノ瀬先生がそのてい鍼を要穴に「そっと当てる」だけで、不思議なことに患者の身体が劇的に変化し、全身の気血が巡り始めるのが分かりました。「刺さないからこそ、術者の集中力と、皮膚のわずかな変化を捉える指先のセンサーが重要になる」と先生は強調されます。力で押し込むのではなく、金の特性を最大限に活かし、皮膚の「気」の門戸を開くようなその技は、まさに長年の経験がなければ到達できない神業でした。
- うつ伏せ(伏臥位)におけるアプローチ:頭部への毫鍼(銀針)休憩を挟み、実技の第2部は患者役をうつ伏せ(伏臥位)に転向させて行われました。ここでは、背部への施術を経て、最終的な仕上げとして頭部へのアプローチが展開されました。頭部への毫鍼(銀針)による自律神経の調整一ノ瀬先生は、うつ伏せになった患者の頭部に対し、再び毫鍼(銀針)を使用されました。頭部は「諸陽の会」と呼ばれ、全身の陽気が集まる場所であり、脳や自律神経系にダイレクトに影響を与える部位です。頭皮は非常に薄く、骨がすぐ下にあるため、適切な角度と深さ、そして痛みを伴わない高度な技術が求められます。一ノ瀬先生は、頭部の先生が見つけたツボに対して次々とアプローチしています。うつ伏せの状態で頭部に銀針を施すことにより、腹部への施術で整えられた全身の「気」が、さらに頭部へと引き上げられ、かつ余分な脳の興奮(上実下虚の状態)が鎮静化されていくのではないかと容易に考えられます。実際に施術を受けているモデルの方は、非常にリラックスした表情になり、いろいろな場所が暖かく感じるとのことでした。銀針が持つ独特の清涼感と鎮静作用が、頭部の施術において最大限に発揮されている瞬間でした。
- 総括:長年の経験により完成された「一ノ瀬」の神髄本講習会を通じて最も強く感じられたのは、一ノ瀬先生の技が、一朝一夕で身につくような表面的なテクニックではなく、「長年の経験により完成された本物の技」であるという事実です。銀針の柔らかさを活かした腹部への毫鍼、金の陽気を最大限に引き出す要穴へのてい鍼、そして全身のバランスを完璧に整える頭部への銀針。これらの一連の流れは、一ノ瀬先生が何万人もの患者と向き合い、その声なき身体の訴えを聴き続ける中で、削ぎ落とされ、洗練されていった結晶に他なりません。参加者からの「なぜその穴(ツボ)を選んだのですか?」という質問に対し、先生が「自分でも明確に区分けしているわけではない」と答えたシーンがありました。これは、知識を超越した「感性」の領域であり、弛まぬ臨床への情熱と経験だけが成し得る境地です。「刺さない針」という言葉の裏には、実は「刺す針」以上に緻密な身体への深い洞察と、金属の特性(金と銀の陰陽バランス)を知り尽くした職人技が隠されていました。本日受講した鍼灸師たちは、一ノ瀬先生の妙技を眼裏に焼き付け、明日からの臨床への大きな活力と、大いなる道標を得たに違いありません。日本の鍼灸の可能性を大きく広げる、極めて有意義で、感動的な講習会となりました。
講習会で感じたことをレポートさせていただきました、受講された方はまた違った事をこの講習会によって感じ取ったかと思います。日々の臨床に新たな刺激を受けて臨んでいただきたいと思います。






豊島区鍼灸師会 会長 戸澤和明
